しぐれ庵

ロンリー・ウーマンが棲む自由空間から発信します。

孤立出産に救いの手を

1月24日午後1時20分ごろ、埼玉県新座市のコンビニエンスストア「セブンイレブン新座大和田3丁目店」のトイレに、生後間もない女の乳児が置かれているのを男性が発見し、店長が110番した。
乳児は病院に搬送されたが命に別条はないという。

衝撃的なニュースだ。
数十分トイレに閉じこもっていた女性が生み落としたらしい。
ひとりで周囲に気づかれずに出産するほど追いつめられていた女性の身上は予想もできないが、わたしは慄然とした。
女の乳児は生存していたという。
その後、母体のほうはだいじょうぶだったのか、とても心配になった。

トイレで生み落とされた赤ちゃんを診たことのある産婦人科医の話によると、便器の雑菌に感染して脳障害を発生するケースがあるという。

以前に杉山春『ルポ 虐待―大阪二児置き去り死事件』(ちくま新書・2013年)を読み、体調が悪くなった。
最後まで読み通せたのは、杉山春が加害者の母親を非難するスタンスではなく、彼女の周辺を丹念にルポしていたからだ。
杉山春なら、このニュースをどのように解釈するのだろうか。

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2018年9月、新聞に掲載された小さな記事にわたしは注目した。
東京都台東区のコインロッカーに乳児の遺体を遺棄した49歳の女性が、逮捕されたという記事だ。

9月24日、住所不定・無職の女性が、「4、5年前に台東区内のホテルで子どもを産んだが、動かなかったのでパニックになり、捨てられずにロッカーに保管していた」と尾久署に届け出た。
知人宅で寝泊まりしていて、何日かおきに料金を入れ続けたという。
料金は1日200円で、未納が1000円を超えると荷物が回収される仕組み。
ロッカーはJR鶯谷駅北口近くの路上にあり、管轄する下谷署員が遺体を発見した。

「コインロッカーに生後間もない乳児を遺棄」というニュースなら、哀しいけれど驚きは少ない。
が、4~5年間、料金を入れ続けるという行為に、49歳の彼女の良心の呵責を感じ、暗澹たる気分になる。
女性の妊娠の裏には、妊娠させた男性の存在がある。
けれども、リスクを負うのは女性のみという結末に、同じ女性としてこころが痛い。

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村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』の単行本が刊行されたのは1980年。
文庫版は1984年に刊行された。
発行部数は200万部というから、驚かされる。
1971年にコインロッカーに乳児が入れられた事件が発生し、追随者が全国的にあらわれて社会問題になった。
『コインロッカー・ベイビーズ』はコインロッカーに捨てられたが、生存していた2人が主人公である。

『コインロッカー・ベイビーズ』の舞台化は2016年で、2018年に再演された。
「現代を生きる若者の代弁者」として2人のコインロッカー・ベイビーズがとらえられている。
コインロッカー・ベイビーズは風化していないのだ。

わたしは村上龍の芥川賞受賞作『限りなく透明に近いブルー』を読んでから、彼の小説を読む気になれない。
テレビ東京で毎週木曜日に放映されているトーク・ドキュメンタリー番組「カンブリア宮殿」で、村上龍はホスト役で、アシスタントが小池栄子。
録画して観ているので、こちらで村上龍の顔に親しんできた。

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2018年05月02日に放映されたNNNドキュメンタリー「ゆりかごから届く声~赤ちゃんポスト」を観た。
赤ちゃんポストを開設した熊本市にある慈恵病院を描いていて、秀逸な作品だ。

蓮田太二理事長は、匿名性が大事だと強調する。
病院の入口から赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」まで、人目につかないような通路が設定されている。
預けかたが映像で紹介されていた。
受けとる病院側の映像もあり、ドキッとする。
赤ちゃんポストの両サイドの風景に落差がありすぎるから。

赤ちゃんポストが誕生したのは、2007年5月である。
当時、新聞のニュースで知り、わたしは衝撃を受けた。
もちろん賛成派である。
きっかけは2006年に県内で起こった赤ちゃんが放置され死亡した事件だという。
慈恵病院には24時間受け付けている、匿名の電話相談窓口がある。
追いつめられた女性に対して、最大限の配慮がなされている。

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赤ちゃんポストのモデルケースはドイツ。
ドイツ国内100ヵ所あまりに、ポストを設置している。
ドイツでは行き場のない妊婦を出産後まで支援するシェルターがある。
赤ちゃんポストを利用した親が8週間以内に引きとりを申し出なかった場合、親権放棄とみなされる。
養子として新たな家庭に赤ちゃんを送りだす。
預けられたすべての子どもの生活環境について継続的に調査し、成人するまで支援する。
望まない妊娠をした女性たちがSOSを発しやすく、多様なシステムで支援しているドイツに、日本も近づいてほしいと切に願う。

ネットで検索すると、支援する組織は幾つかみつかり、その活動には脱帽する。
協賛する企業が増えてほしい。

橘ジュンさんが、育てられない子どもを妊娠した女性たちを支援する、ドキュメンタリー番組を観たことがある。
民家に数人の妊婦が生活を共にし、産後は情が移るのでわが子を抱かないまま、養子縁組先の家庭に迎えられる。

ルポライターの橘ジュンさんについては、街を彷徨う少女たちに声をかけ、救済しようとする活動を知ってはいた。
2009年、NPO法人「BONDプロジェクト」を設立し、活動の輪を拡げているようだ。